賀茂金秀&富久長・広島蔵元探訪レポート(富久長編)

更新日:2015/08/27

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ここが正面玄関です。

 

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富久長醸造元・今田酒造のシンボル。昔はこの煙突の下で米を蒸していたものです。

 

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「ちょっと汚れている」と言って掃除を始める美浦さん

 

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美浦さんはこう見えても私と同じ生まれ年で学年は1つ下となるが、とてもチャーミングでコケティッシュなとても若々しい女性杜氏である!20年前はお酒の事でしゃべり合って話すスピードが大変早く「どこで息継ぎしてるのか?」と私に思わせる程の「しゃべり」で私が唯一負けを認めたお方です!!(今はもう負けませんが…?)
富久長醸造元・今田酒造は日本三代銘醸地、東広島市西条から南下すること約20kmの所にあり、加茂金秀のある黒瀬町とは打って変わりのどかな瀬戸内の港町にある。
かつて酒造りには不向きと言われた軟水を使った醸造法を確立し、広島の吟醸造りに大貢献した醸造家・三浦仙三郎氏が住人でいた家が蔵裏手のかってみかんの段々畑だった最上にある。1番近くだったので、最も三浦氏の教えを受けた蔵元だ!

 

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上記の富久長のシンボルの煙突の右側に三浦仙三郎先生の家が見える。(現在は誰も住んでいない)

蔵元の娘として産まれた今田美穂さんは、国立の東京滝野川醸造試験所の研究生を経て1994年実家の富久長へ入社するが、学生時代は東京の大学に入って一時東京で会社員をしていた。大好きな落語や能などの事業に携わり、文化芸能にも造詣が深い。美穂さんが蔵を受け継ぐ決意をして、約21年前に蔵元へ戻ってきた時、広島のベテラン杜氏の先輩達は若い美穂さんを歓迎し、持っている全ての知識を伝えられたと言う。
そして、今田酒造の家訓となっている「百試千改」とは三浦仙三郎氏の座右の銘で、現在蔵元の要となっている。
美穂さんの根底にあるモノは広島杜氏への尊敬の念と郷土の誇りに他ならない。
そして、今回私が富久長へ訪蔵した最大の理由は25Byの造りから試験醸造している「ハイブリッド酒母」の解明と訪蔵寸前に出荷した試験醸造した「焼酎白麹仕込み清酒・海風土」について話をするためだ。
「ハイブリッド酒母」とは?多分読者の大体が某メーカーの車を連想すると思う。「ハイブリッド」とは異質の技術や素材などを組み合わせる事である。この場合「酒母」なので、現在酒造りの「酒母造り」には4通りある。それは開発の古い順で言うと、水酛=菩提酛(室町時代)、生もと(江戸時代)、山廃酛・速醸酛(明治時代)である。
つまりのこ4つの酒母のうち、少なくとも2つ以上の「酒母造り」を組み合わせた方法という事が、まず理解できる。
まず私がこの時点で想像したのは新政(秋田)の「平成式生もと造り」(私が勝手に命名してそう呼んでいるだけ!)である。
それは速醸酛で添加する醸造乳酸の代わりに生もとより培養して取り出した自然の乳酸菌を植え付け、そこより生成する乳酸を利用しながら雑菌を抑えて優良酵母を添加して増殖させていく方法の酒母である。
つまり速醸酒母の一部に生もと酒母を組み込んだ2つの酒母造りをMIXした正に「ハイブリッド酒母」と言える方法だ。とにかく先に美穂さんに電話を入れて確認すると、その通りだったが新政のそれとは若干造り方のスタートが違っているのが結果的には同じになるが、この酒母の発案の仕方が全く違っていた!
美穂さんの得意とするのは「吟醸造り」であるが、十数年前よりこの「酒母本来の香りを活かした上で、もう少し厚味のある酒質にするためバクテリアを融合できないものか!?」と考えていた。その頃、私も師事していた故・永谷正治先生と知り合い助言を求めたらしい。その時、永谷先生は「普通に造った酒母を乳酸菌で汚せば良い」と答えたらしい。当時の美穂さんは、その真意がわからなく試行錯誤を繰り返し、やっと25Byより取りかかったらしい。その美穂さんの取った詳しいやり方は後で説明する事にして、まず私なら永谷先生が言った方法なら、こう考える。
それは約10年前に言った事らしいので、当時はまだ生もと造りによる酒質より安全にキレイな酒質となる速醸酛造りを推奨する鑑定官の偉い先生達が開発した考えを永谷先生も持っていたと思われるので、美穂さんに「乳酸菌で汚す」と言ったのだと思う。つまり「普通に造った酒母」イコール当時主流の造りだった(今でもそうだが現在は生もと系酒母が見直されてきている風潮だ)「速醸酛酒母」は間違いなくそれを「乳酸で汚す」つまり「生もと系で自然に生成される乳酸菌による乳酸」を添加する事を「汚す」と言ったのだと思う。整理すると主となる酒母は「速醸酛造り」でスタートし、醸造乳酸を添加する所で天然の乳酸菌を添加して、自然の乳酸を生成させて、あと優良な協会酵母を添加して安全に増殖させると言う事しか考えられない!!
ここからは美穂さんが理解した方法の説明をしよう!私が考える方法と考え方は全く同じであった!
しかし、美穂さんの考えはもう1つ安全策が施されていた。それはより安全に酵母が育成できるよう酒母造りを約60度近くの高温にして雑菌を滅菌しながらスタートする「高温糖化速醸酛」であった。
先程「新政のそれとはスタートが違っても結果的に同じになる」と言ったのは、新政のやり方は普通速醸酛でスタートしているが、乳酸が生成させると優良なK6酵母を添加してから、その酒母のタンクごとクレーンで釣り上げ、もっと大きなタンクに高温にした湯を張った中へ温煎のようにポチャリとつけて加熱させ滅菌させるから。しかし新政の祐輔社長がこの方法を思いついた根源は「醸造乳酸の添加は本来の純米造りにはなならないのでは?」という発想からで、今回の美穂さんの「ハイブリッド酒母」とは発想のスタートが全く違うのだ!!
若干、今回は話す内容が一般の方には理解しにくかったかもしれないが、いつもコソコソと見ている同業の「もどき専門店の方々」ぐらいは理解してくれたかな!?しかし、私の恩師、永谷先生もあと6年生きていてくれたら、こんなアバウトな言い方をしっかり討論できたのに、いかにも永谷先生らしくほくそ笑んでしまった!!
美穂さんとは電話では詳しく話が出来なかったので、実際に会ってこの様にお話すると「誰もここまでハイブリッド酵母の造り方について、しっかり考えて語ってくる方は酒友さんが初めてです!」と驚いて笑っていた。もう美穂さんが「ハイブリッド酒母」を考案して2期目の造りとなるのに私以外にこんな楽しい会話をする奴はいなかったのか!?つまり大阪だけじゃなく全国的に「もどき専門店」ばかりなのか…!?
まぁ他の店は放っておいてもう1つの「焼酎麹仕込み清酒」についてだが、私も7年前(新政の祐輔社長も時間を同じにして「焼酎麹仕込み・亜麻猫」を完成させる)から「焼酎白麹仕込み・大正の白鬼」を加茂福酒造(島根)の吉賀社長と共同で開発に成功していて、美穂さんの訪蔵のお土産として、その「大正の白鬼」を持って行くと喜んで受け取ってくれた。そして当方の造り方を先に説明したが、美穂さんの方の「焼酎麹仕込み・海風士」は造り方のレシピが、広島県のある研究所が開発したもので「申し訳ないがそこの許可を取らないと話せない!」と言う事だったので、詳細は聞けませんでした。しかし当店「酒友」で来月9月5日(土)に『全国の焼酎麹仕込み日本酒(全11種類)でNO1に美味しい酒を審査する会』という、またもや業界で初開催となる日本酒会を開催します!!この時は当店の「大正の白鬼」は勿論、美穂さんの「海風士」、新政の「亜麻猫」、焼酎麹仕込み酒の元祖である天の戸(秋田)の「天黒」など、全国のものが一同に集まり、これだけの酒が一挙に飲み比べれるのは本当に一生に一度、最初で最後となるかもしれない会です!(何故なら試験醸造の酒が多いので2回目は造られないと思われますので)この会の詳細は前回のブログで紹介していて、参加募集中なので、どんどん予約電話して下さいネ!!
では、富久長さんの蔵元を簡単に紹介しておきます!

 

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この玄関を通り抜けて壁に沿って上を見上げると

 

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こんな可愛いツバメ4兄弟が出迎えてくれた!

 

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事務所前にある休憩室

 

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応接室で「ハイブリッド酒母」と「焼酎麹仕込み酒・海風士」について語り合う美穂さんと店長
因みに美穂さんの前にある4合ビンが店長が発案して造った「焼酎麹仕込み・大正の白鬼」で、お土産として持参した。

 

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続いて製造場です。昔の蔵は大小ありますが、どこも皆こんな大きな木の梁で組まれている。

 

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「広島杜氏の造りの流れを汲む蔵元の証」となるのが、この整蒸機だ!これは米を蒸す時、本体に注入した水を沸騰させると同時に圧力をかけ甑に送る蒸気の温度が量を調整する機械、またボイラーからの生蒸気をさけてキレイな蒸気を甑に送る利点もある。

 

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これが回転式甑。この下にボイラー機を設置して、先程の整蒸気より蒸気を送って米を蒸す。蒸し上がると左のハンドルを回すに連れ甑が傾き蒸米をかき出し易くなる。

 

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中は3部屋に分かれているステンレス製の麹室で23年前に設置された。
当時は十四代、新政、くどき上手蔵元も使用している大変高価なハクヨー社製の薄盛三段式自動製麹機も入っていたそうだが美穂さんが「麹造りで個性を出し酒質で勝負したい!」という事でこれを追い出し箱麹方にチェンジしてしまった!

 

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この搾り機が珍しい「ヤエガキ式銃型圧搾機」である。実はこれを導入する様すすめたのが私の恩師、永谷先生なのだ!ヤブタ式を縦型にしたと思えばよい。
確か奈良の「山鶴」もこれを使っていたと思うが?…

 

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仕込みタンクと貯蔵タンク、醪の仕込みは週に2本のペースである。

 

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昔は和室を使用して蒸した名残

 

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ここは分析室だったような…?

美穂さんの案内で蔵内を一通り見せて頂いたが、私の感想は、平地で段差が少なくとてもコンパクトな動きで酒造りが出来るよう機材が配置されていて、とても機能的であると感じた。
また、美穂さんも「故・永谷先生に師事していた」と言ったが「造り方」よりも「山田錦の育成」を教えてもらっていて、この知識が後に広島の酒米のルーツである「八反草」の復活栽培につながる!この江戸時代より育成していたと言われる在来品種の米「八反草」が「八反10号」「八反35号」「八反錦」と進化してきた米である。美穂さんはオフシーズンの現在、蔵から大分離れた場所にある契約農家さんと一緒に田んぼに入って「幻の米」と言われる「八反草」の栽培をしている。日本で唯一この「八反草」を使って酒を醸す蔵元は『今田酒造』だけである!
体は小柄で大変華奢ではあるが、すごくパワフルだ。広島当時の誇りを胸に、古の先輩広島当時への感謝と恩返しの酒造りを実行している今田美穂杜氏を私はこれからも応援していきたい!!

 

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先日7月11日に美穂さんが大阪の木下名酒店シエルに遊びに来た時のワンショット!
さてさて、先程も言いましたが、美穂さんも今年試験醸造的に造った「焼酎麹仕込みの日本酒・海風士」もノミネートされた『全国の焼酎麹仕込の日本酒(全11種類)でNo1を審査する会』の開催が9月5日(土)に決定しました!!まだ全国1600蔵近くある蔵元のうち、この仕込みをしている蔵は私が知る限り15蔵ほどしかありません。また試験的にしか造っていないので、出荷量も極小で一挙に11種類もの焼酎麹仕込日本酒が揃った事も奇跡に近いものがあります!是非、この機会に現在最も焼酎麹特有なクエン酸を上手に日本酒に取り込み美味しい酒を造っているのはどこの蔵かを参加者の皆様で審査してNo1を決めましょう!!その出品酒の蔵元社長や杜氏(どこの蔵元さんかはサプライズゲストにつきマル秘!)さん達もお客様に紛れて来ます。どういう発想でどういう造り方をするの?など色々とお話、発表して頂きますので、是非ご参加下さい。


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